FC2ブログ

爆走ストルイピンカ

* Novel List *

 

優勝メダル 現代短編

*  
 ここ最近、窓口で客の応対をしているさなかにも、どこからか、あらぬ声を聞くことがある。幼い子供の声である。男の声か女の子の声かは分からない。内容も聞き取れないことが多い。なぜか郁子はそれを、このさき生まれてくるわが子の声ではないかと思う。  だが虚空に耳を澄ますのは、時と場所を選んだ方がよい。 「川辺さん、ボーッとするのも分かるよ。いや、今が一番幸せなときよ。実際一緒に暮らし始めると、そりゃあもうあ...

ヤコブの梯子(千畝伝拾遺) 歴史短編

*  
●もう何十年も前のこと、私たち一家が東欧の古都に住んでいた頃の思い出である。 リトアニアのカウナスは、外交官だった父の任地であった。欧州情勢の緊迫を受け、新設された領事館。そこへ語学能力を買われ、家族をともない着任した初代の領事が私の父であった。 旧市街をのぞむ閑静な高台の一角に領事館はあり、その二階が私たち家族の住居になっていた。父と母、母の妹の節子叔母、長男である五歳の私、そして生まれたばかり...

戯曲『A LA DESTRUCTORA』 歴史短編

*  
一幕一場   〔登場人物〕 ●「革命家」  アレハンドロ・デル・ソルス  革命軍副司令官 三十七歳 黒髪、顎ひげ   オリーブ色の野戦行動服         ●「娘」    ヴィオレータ 十五歳 栗色の髪、紫色の瞳 白いフリルのついたブラウス、長いスカート〔背景〕1950年代後半、中南米の某小国。ただし、舞台となる一室は、必ずしも現実地上の時空の制約にとらわれない。*   *   *   *そこそこ...

足好忠僕出征餞 歴史短編

*  
 庭仕事をしていた越智信吉が、応接間で待つ高柳子爵のもとに呼び出されたのは、太平洋戦争も二年目半ばに入った昭和十八年九月の暑い日のことであった。 1  高柳子爵家とは堂上公家のような響きだが、実のところは四国の山国の小大名である。それが幕末になると、時流を読みぬいて、いちはやく尊皇の旗幟を明らかにし、大政奉還の後は、中央政界で長閥の驥尾に付して入閣・叙爵をはたした。 子爵家は小石川の藩邸跡に、ドイツ...

ナターシャ・ガリエナの帰還 歴史中編

*  
1 イルティシ河から水を引き、これから建つ小規模コンビナートに工業用水を供給するための浄水場の工事は佳境に入っていた。とはいえ建築屋の二期工事が始まらないことには、いくら早く仕事を上げても、僕たち電気工事屋は遊んでいるしかない。 そんなわけで僕とコンスタンチン・イリイッチは早めに昼食をすまし、のんびり河原で日なたぼっこをしていた。僕は煙草を吸いながらタンポポの花が揺れるのを眺め、彼は芝に置いた新聞...

+